『星がひとつほしいとの祈り』このタイトル、素敵すぎませんか?
本屋で見かけるたびに何度でも、なんて素敵なタイトルなんだろうと驚いてしまいます。
実は、この本を読むのは3度目。
一度目も二度目も、正直あまり私の心に響かなかった。
自分の環境やそのときの心の状態によるのか、あるとき突然呼ばれるように、また読みたくなる本ってあります。
そして読んだ3度目。今度はしっかり感想を書きたいと思いました。
- 素敵すぎるタイトルに惹かれて
- 今、もう一度読みたいと強く思ったため
書籍情報・あらすじ
書籍の基本情報
書籍名 | 星がひとつほしいとの祈り |
---|---|
著者名 | 原田 マハ |
出版社 | 実業之日本社 |
出版年月日 | 2013年10月4日 |
頁数 | 304ページ |
あらすじ
――時代がどんな暗雲におおわれようとも、あなたという星は輝きつづける――
20代前半で中絶を余儀なくされたデザイナーも、アラフォーながら旅好きの独身女性二人も、夫をがんで亡くし、娘を嫁に送る直前の50代の母も――
引用:Amazon商品ページ
20代から50代後半まで、それぞれの世代の女性が様々な試練や人々のあたたかさに触れる。
娘として母として、女性が誰でもむかえる旅立ちのとき、人生の旅程を指し示す七つの物語。
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本を読んだ感想:『星がひとつほしいとの祈り』
老婆の生きる星となったもの
星とは何か、とお訊きになりますでしょうか。
そうですわね、それは人それぞれ。恋であったり、愛であったり。幸せ、平和のようなもの。あるいは、お仕事の成功とか。ささやかな言葉……であるかもしれませんわね。
わたくしの場合は、そうですわね、詩、でございましょうか。
ヨネがいつの日か、わたくしのために創ってくれる、と約束した、一篇の詩。
それをいまなお、待ち続けているような気がいたします。
引用:『星がひとつほしいとの祈り』
かつて東京の名家の娘であった老婆は、生まれつき盲目でした。
暮らしを支えてくれた父、側仕えとしていつも一緒にいてくれたヨネ、そして初めての恋の相手だった先生。
その誰にとっても老婆は星のような存在であり、また老婆にとっても、それぞれが星となっていました。
ヨネが言葉にする世界の情景がすべてだった老婆にとって、ヨネの死はもっとも大きな喪失だったのだろうと感じます。
激しく恋に落ちた先生とその子ども、もしかしたらそれよりも。
老婆はいまだにヨネと約束した一篇の詩を待ち、それを支えとして生きているのでした。
星とは遠くに灯る道しるべ、遠いけれどそこにある導きのようなものなのですね。
老婆が文香にもたらしたもの
老婆が聴かせた昔話のことを文香は覚えていませんが、星のかけらのように胸に残っている…という描きかたが素敵でした。
旅を終える文香が思うこと、それはやはり「何か書いてみようかな」でした。
文香にとって、言葉、文章、仕事が星にあたるものなのかもしれません。
ヨネの紡ぐ詩を待っていた老婆にとって、文香が純粋に何かを書こうとすることは何かが報われることなのではないでしょうか。
老婆の星が文香に宿り、それがまた誰かに灯る。
人ってこんなふうに影響しあって繋がっているものだよな…と、この本から何かをもらった私もしみじみと感じたのでした。
本を読んだ感想:『長良川』
深い悲しみの中で、喜びを抱く夫婦
研究でつまずいたり、くさくさするようなことがあったら、この川を思い出すんだ。
川と、川を取り巻くものたち。
川があって、橋が架かって、人々が行き来して。
川辺があって、家が並んで、釣り人が糸を垂れて。
水鳥、魚、鵜舟。大昔からずっと続いている、人間の営み。その中心を、静かに流れていく川。
人間ってちっちゃいよな。でも、ちっちゃいなりに、川と一生懸命に付き合っているんだな。
人間って、なんだか可愛いな。
そんなふうに思って、おれもちっちゃい、可愛いもんだ、って。
引用:『長良川』
この、「人間って可愛い」という感覚。
これって、普段はなかなか感じられない感覚ではないでしょうか。
これを感じることのできる場面、それがいつなのかと想像すると、とても悲しいときなのかなと思うのですよね。
この感覚は私にも少し身に覚えがあり、上記の引用部分を読みながらそのときのことを思い返していました。
悲しくて苦しくてけっこうどん底にいるとき、人間って、自分って本当に小さいな。可愛いな。と感じながらその苦しみを少し脱しかけていたと思うのです。
悲しみが澄んでいき、その反対側にあるはずの喜びが際立って感じられる。
そういうとても純粋な感覚をこの夫婦は抱いていて、小さな幸せを常に心に抱きながらの二人の旅は、本当に美しい光景です。
大きな自然のふところで暮らす人間
この本を読んでいるとき、この小説たちに通ずる大きなテーマは何だろう?と考えていました。
もちろん本のあらすじにあるように、さまざまな時代・環境にある女性たちが強く生きていく姿は印象的です。
私はもうひとつ、自然とともにある人間の描写が多いなと感じたのです。
登場人物たちが旅をしていることが多いせいでもあると思いますが、川の流れや絶滅危機のトキ、大好きな森の案内人となった母など、どうしても自然はそばにあります。
人と自然とはいつでも一緒に存在し、人はそこからたくさんの何かを感じている。
「何か」なんて言うのは少しずるいので…表題作の言葉を借りて、「星」と言わせてもらうことにしましょう。
おわりに
最後に、この本を読んで私が感じたことを素直に、率直にまとめます。
- 大きな自然の中で、人は生かされて生きている
- こういうことってあるよね。やるせないけど、受け入れるしかない。もどかしい。
- 小さくて可愛らしい、人といういきもの。
今回は挙げていませんが、この本にある『寄り道』という小説も大好きです。
都会で必死に頑張るうちに、たった一人の大切な母を亡くしてしまう娘。
母子の想いを想像したらどうにも泣けてしまう、悲しくて優しい物語でした。
どれもきゅっと切なくほんのりと優しい気持ちになれる、そっと置いておきたい小説です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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