クスノキの番人|念に込められた思いと家族のかたち。不思議で爽やかな長編

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この本をおすすめしたい人
  • 東野圭吾の不思議で爽やかな長編を読みたい人
  • 家族にまつわる物語を読みたい人

≪ご注意ください≫これより先はネタバレを含みます

目次

概要

タイトルクスノキの番人
著者東野 圭吾
出版社実業之日本社
本の基本情報

恩人の命令は、思いがけないものだった。
不当な理由で職場を解雇され、腹いせに罪を犯して逮捕された玲斗。
そこへ弁護士が現れ、依頼人に従うなら釈放すると提案があった。
心当たりはないが話に乗り、依頼人の待つ場所へ向かうと伯母だという女性が待っていて玲斗に命令する。
「あなたにしてもらいたいこと、それはクスノキの番人です」と……。
そのクスノキには不思議な言伝えがあった。

引用:Amazon商品紹介ページ

本を読んだ感想

クスノキ 祈念に関する諸条件
  • 新月の夜に預念し、満月の夜にそれを受念することができる
  • 念を受け取れるのは、預念者と血の繋がりのある者のみ
  • うまく受念するためには、預念者と受念者との間に十分な思い出があるなど関係性が必要
  • 念にはその人のすべてが含まれる。一部だけを預念、受念することはできない

祈念の裏にある父の気持ち、息子の覚悟

大場壮貴は和菓子メーカー「たくみや本舗」の跡継ぎ息子です。

亡くなった会長であり父である藤一郎の念を受け取るため、月郷神社のクスノキを訪ねます。

父・藤一郎ととその息子・壮貴との間に、実は血の繋がりはありません。

それを知っているのは父と息子の二人だけ。

祈念できる条件の中にあるように、念の受け取りができるのは血の繋がりのある関係性だけ

それを知っていながら藤一郎はクスノキに念を預け、しかも「祈念は息子・壮貴にのみさせるように」と遺言状に遺します。

その意図はなんと、「受念できた」と壮貴に嘘をつかせ、血の繋がった息子であることを周囲に示しながら会社を守らせるというもの。

クスノキの力をこのように利用するなんて、藤一郎の考え方すごくないですか?

クスノキに祈念しても壮貴が受念できないことを逆手にとり、利用したのです。

しかも、そのつもりでクスノキに預念することを生前壮貴に伝えたわけではないのです。

息子が自ら父の意図に気づき、出生の秘密すべてを背負う覚悟ができるようこのやり方に賭けた。

その父の意志をちゃんと受け取った壮貴もすごくない??

もちろん、クスノキの番人である玲斗の助言あってこそだけれど…

二人が時を超えて結託しこれをやり遂げたこと、それ自体が血の繋がりを超えた本当の親子といえる根拠なのだろうな。そう納得できるものでした。

壮貴の出生の秘密を知っているのは二人だけとさきほど言いましたが、実はそれを知っている人はもう一人だけいました。

壮貴の付き添いとして一緒に月郷神社に来ていた福田さん。会社の常務取締役であり、壮貴の後見人です。

会社を藤一郎と一緒に守ってきて、壮貴の出生の秘密についてももちろん知っていた。

知っていながら、壮貴自身が出生の秘密を乗り越え、会社を守る覚悟を決めるまで黙っていたのです。

ただのちょっと意地悪そうなおじさんと思わせて(失礼)、あたたかく深みのある人かもしれないなと感じています。

あなたはどうする?クスノキに祈念できるとしたら

クスノキに祈念することで歪みなく念を預けられ、受け取れるとしたら、自信をもってそれに臨める人はどれだけいるでしょうか。

将来クスノキに預念することが決まっていて、物心ついた頃からそれを知っていたら。

「クスノキに預念できるようなことかどうか」が、生きる指針になっていきそうですね。

それは自分への戒めになる反面、ある意味呪縛かも…

それに、受念する側にも覚悟がいりますね。

上記の祈念に関する諸条件の欄にあるように、預念者は例えば「このことについての念しか預けない」などと内容を限定することはできません。

預念者にとって預けたい念だけでなく、誰にも知られたくなかった秘密や雑念、憎しみや悲しみまでもすべてを預けることになります。

受念者がそれをすべて受け取るって、それはそれで覚悟のいることなのではないかな。

物語の中である人物が言っているように、人を傷つけたことが一度もない、そんな真っ当な人間はいません。

大きな過ちに限らず、抱いてしまった負の感情や恥ずかしい過去など、誰にでも知られたくないことはあるでしょう。

少なくとも私は…クスノキの祈念の力を利用できると知っても、きっと預念も受念もしないと思います。

悩む人

あなたならどうしますか?
祈念しに、月郷神社へ行きますか?

でも最期のときが近づき、その間際にクスノキに預念することで魂の解放にはなるかもしれない。

ぜんぶに関しての懺悔というか、感謝というか。なんだか現世から解き放たれて、気持ちが楽になる気がします。

千舟と玲斗 本当の家族になっていくふたり

千舟は過去の罪の意識から玲斗を引きとり、亡くなった実母に代わって彼を育て直します。

厭世的な考え方を千舟に悲しまれたり叱られたり、一緒に過ごす中で愛情を感じられるようになった玲斗。

彼は苦労はしたけれど母には愛されていたし、その後違う形で千舟からも愛情を受けています。

念のやりとりがあったわけではないけれど、ある意味、玲斗は母の美千恵から千舟に引き継がれ、育て続けられているのですね。

さまざまな人たちの思いに触れ、次第に深い考えをもつようになる玲斗。

千舟と玲斗が本当の家族になっていくのを感じながら、もう少し先まで、二人のことを見てみたかったな~と思ってしまうのでした。

おわりに

実はこの物語にはもう一つ重要な家族のストーリーが入っています。

佐治家についても触れるつもりでしたが、なんだか蛇足になりそうなのでやめておきます。

クスノキの力が一番よくわかる部分でもあるので、ぜひ読んでみてほしいです。

いくつかの家族が出てきますが、クスノキの念の力が必ずしも作用しているわけではないのがいいですよね。

むしろクスノキに祈念できないことで結びつきが強まる、そんな描き方になっているのが特に好きなところ。

それにしても、壮貴や玲斗が大人になってどんなふうに変わっていくのか、そこのところをもう少し読みたいな。

シリーズものや、数年後…みたいな感じでまた読めたら嬉しい。

読後感がよく、読み終わって爽やかな感じの残る小説でした!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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